#1155 全世界よりもまことのいのち

メッセンジャー似顔絵

ごきげんいかがですか。高原剛一郎です。

さて、今年の冬の北京オリンピックで、スキージャンプの高梨選手がスーツの規定違反を問われて失格になるという事件がありましたね。その次の日、彼女は自分のSNSに謝罪文を投稿しましたが、その画面は真っ黒でした。何か不吉なことを連想させるような重苦しい画面だったのです。彼女は病んでいたのです。また、昨年はテニスの大坂なおみ選手がうつ状態であることを告白し、全仏オープンを棄権しました。心が壊れていたというのです。そして、昨年の東京オリンピックでは体操女子のアメリカ代表選シモーネ・バイルズが、精神的ストレスから演技を途中でやめてしまいました。
今あげた3人の選手は世界のトップに立てる超一流のアスリート達です。肉体の強靭さは並みの人間とは比べものになりません。特別な才能を特別な訓練で磨きあげて、世界の頂点にまで上り詰めてきた人たちです。しかし肉体が人一倍タフでも、心はみな普通の人たちと同じ程度に弱さを持っていたのです。ある時、キリストは弟子たちに次のように言われました。
「人は、たとえ全世界を手に入れても、自分のいのちを失ったら、何の益があるでしょうか。そのいのちを買い戻すのに、人は何を差し出せばよいのでしょうか。」
ここで言う全世界とは世界がもたらす栄光・名声・富・財産・評価等々のことです。もしも世界の頂点に立てばきっと人から評価され、尊敬され、憧れられ、富や財産も手に入り、人生は全てうまくいくように思います。
しかし、人は全世界を手に入れるために自分の命までも犠牲にするとするなら、それは何の意味もありません。自分の命が壊れてしまったらその全世界に何の意味があるでしょう。一瞬の栄光のために自分の人格が壊れたり、損なわれてしまったりするなら、それは決して割に合う話ではないと思うのです。
人の心、人の命を満たすものは世界の頂点を獲得して得られる何かではなく、ありのままのあなたを愛し、慈しみ、赦し、そして満たす神のいのちなのです。

マラソンランナー原裕美子さん

先日、私はマラソンで頂点に立った原裕美子さんの手記を読みました。高校時代から才能を認められていた彼女は卒業すると実業団入りします。しかし、一年目から監督、コーチから常に罵声を浴びることになります。「お前は自分に甘いんだよ。」一体どこがいけなかったのでしょう。体重だったのです。身長163cm 49キロでBMIでは痩せている範疇です。しかし、マラソンランナーとしては重すぎだと酷評され、目標は46キロあと3キロ落とせというわけです。
一日に4度体重計に乗せられ、100gでも増えれば叱責されます。しかし、食べずに走っても減量できなかったそうです。体重が落ちないというのです。やがて食事は減らされ続けメニューも徹底的に管理されます。
我慢の限界を超えたある日、こっそりクッキーを食べてしまいます。気づくと30枚入りの袋は空っぽです。精神的に追い詰められたその年の冬、湯船に浸かると吐き気が込み上げ浴室で嘔吐してしまいます。風呂上がりに体重計に乗ると、なんと少し減っていたのです。こんなに楽に体重が落とせるのかとそこで感心してしまったんですね。厳しい食事制限やトレーニングのストレスから解放されたような気がしてしまったのです。そして、翌日から食べては吐き食べては吐き、この食べ吐きが常態化していたのです。

摂食障害と窃盗症

目標体重を達成し減量のストレスがなくなると走りに集中できました。そして、自分の走りを取り戻せたといいます。平成17年初マラソン名古屋国際女子で初優勝してしまいます。そして、8月の世界選手権では日本人最高位の6位入賞にまで上り詰めるのです。
いよいよ世界の頂点が見えてきたんですね。しかしその陰では、食べては拍吐く、食べては吐くがいよいよエスカレートしていました。心が壊れていったのです。目標はもはや体重よりも精神の安定に変わっていきます。栄養不足から怪我が相次ぎます。通常なら一ヶ月で治る疲労骨折の治療が三ヶ月かかるようになります。
そして、2008年の北京オリンピックの前年、北京で合宿をはっていた時のことです。所持金はほぼゼロなのに食べ吐き用の食料が欲しくて、入った店で気がつけばパンや菓子を服のポケットに詰め込んでいたんですね。生まれて初めての万引きです。嫌悪感で苛まれます。成績不振になりオリンピック出場を逃しました。やがて、元コーチにお金を騙し取られたり、婚約破棄されたりとトラブルが重なりストレスが高じると万引きが止まらなくなってしまうのです。
最初に逮捕されたのは今から10年前です。もう絶対しないと誓うのですが人生が行き詰まると再犯に走ってしまうというのです。6回目の対応で弁護士の紹介により専門医の診察を受けました。「あなたは摂食障害と窃盗症です。つまり、衝動的に盗みを重ねる精神の病気にかかっています。」と診断されるんです。そこで、自分の決心では回復はできないと分かり、専門的治療を受けると万引きの要求の方はようやく遠のいていったそうです。

キリストが内面から新しくされる

彼女は世界の頂点をみるところにまで上り詰めたのですが、それと引き換えにご自身の心がズタズタになりました。そして、心の傷が痛み出すとそれを忘れさせてくれるように思える万引き行為が暴走するという繰り返しでした。
実は、私はその赤裸々な告白を読みながら、とても他人事には思いませんでした。私自身の荒れた青春時代がかぶるところがたくさんあったからです。たとえ全世界を得たとしても人の心は満足しません。全世界がもたらす富も名誉もほんの一瞬のことです。それは、心を満たすのにはあまりにも儚いものです。
実は原さんの話には続きがあります。平成30年2月実家で療養中に再び事件を起こしてしまうのです。それは執行猶予中の7回目の逮捕でした。もうここまでくると死んで詫びたいという思いでいっぱいです。どんな判決でも受け入れようと絶望しながら裁判の席に立ちました。すると奥山裁判官は優しくこう言ったそうです。「私自身も市民ランナーなんです。あなたの活躍は昔から知っていましたよ。あなたには努力できる才能があります。更生して似た症状に悩む人に勇気を与えることができると思います。」
裁かれて当然なのに優しい励ましの言葉を受けた彼女は自分を曝け出す生き方にチェンジするようになるんです。自分には助けてくれる人が必要であるということを認め、そのような人たちの協力を得ながら治療しつつ働いておられます。
さて、キリストは私たちを裁くことも出来る方ですが、救うこともおできになる神なのです。このキリストがあなたの心を癒して内面からあなたを新しくしてくださいます。
どうぞ、あなたも生ける救い主をご自分の心の中に受け入れてください。心からお勧め致します


使用CDジャケット
吉田恵子:イエスは我がいのち

今日のみことば
人は、たとえ全世界を手に入れても、自分のいのちを失ったら何の益があるでしょうか。そのいのちを買い戻すのに、人は何を差し出せばよいのでしょうか。
(マタイ16:26)