#1072 最後まで共にいる神

メッセンジャー似顔絵

ごきげんいかがですか。高原剛一郎です。

さて近代日本の中で、聖書一冊をもって測り知れない思想的影響を与えたクリスチャンに内村鑑三という人がいます。
ある朝、内村が出かけるとき、幼い息子に「汽車のおもちゃを買ってきてあげよう」と約束するのです。
夕方になって家に帰ると、息子が玄関まで走って迎えに出ます。「お父さん、汽車のお土産は?」。
ところが内村はすっかり忘れていたのです。「今日忙しくて、つい忘れていた」と言うと、息子は大きな声で「嘘つき」と言ったのです。
彼は「親に向かってなんだ、その言い草は」とは言いませんでした。その言葉を聞くやいなや、内村は脱ぎかけていた靴を履き直し、四谷までおもちゃを買いに行ったのです。
どうしてそこまでしたんでしょう。内村自身が、神の約束に生きていた人であるからです。約束にすがって生きている彼は、もし約束が果たされないならどんな心境になるか、を容易に想像することができました。それで買いに行かずにはおれなかったのです。
聖書は永遠のベストセラーですが、その内容をひとことで言うなら「神の約束の記録」です。神様には、うっかりはありません。神がした約束は必ず実行されるのです。今日は、死からよみがえったキリストが、いよいよ天に帰る直前に、弟子たちに語られた約束のことばから考えてみましょう。

ですから、あなたがたは行って、あらゆる国の人々を弟子としなさい。父、子、聖霊の名においてバプテスマを授け、わたしがあなたがたに命じておいたすべてのことを守るように教えなさい。見よ、わたしは世の終わりまで、いつもあなたがたとともにいます。

ここから三つのことを読み取りたいと思います。

逃げ出したくなる終わり:死

第一に、この世には終わりがあるということです。
また多くの場合、この世が終わる前に、個人の終わりがやって来るのです。それは死です。私たちは元気なとき、つい、自分がいつまでも生きているかのように勘違いしてしまいます。しかしこの世界も、私自身も、必ず終わりを迎えるときがやって来るのです。そしてそれを見つめることが、人生の覚醒につながるのです。
北海道に日本のホスピス緩和ケアの発展に関わってこられた看護師、石垣靖子さんという方がいらっしゃいます。21歳でナースになった彼女は、北大附属病院の外科で働いていました。ところが死に直面する場に立ち会うと、恐怖心から体が震えだし、その場から逃げ出したい衝動にかられるのだというのです。そのような恐怖心は、緊迫する医療現場でのみ起こるのではなく、火事の現場や、真っ赤な夕焼けを見たときにも、なぜか発作的にそのような心境に襲われてしまうというのです。

終わりは必ず来る

理由がわからないままだった石垣さんは、40代の初めに「人生脚本の書き直し」というワークショップを受けるのです。そこで「10歳までの出来事で、最も恐ろしかったことは何?」と質問され、記憶の奥底から飛び出してきたのは、6歳のとき、故郷樺太からの引き上げ体験だったのです。
ソ連の樺太攻撃の直前、小さな漁船に乗って故郷を後にします。ふと目を覚ますと、あたり一面が火の海です。家も、島も、まわりの海も、ソ連軍の砲撃で炎に包まれていたのです。「ああ、これが死ぬってことなんだ」と、子供心に思ったその当時のことを、まざまざと思い出されたのです。その体験を文章に書きながら、封印していた自分がいじらしく、いとおしく、泣けて泣けて仕方がなくなりました。そして「6歳の靖子ちゃん、怖かったね、かわいそうだったね」と自分に言い聞かせたというのです。この経験から、死と向き合わざるを得ない末期患者のために、自分にできることをやろうと心定められたことが転機となったというのです。
世界はいつか終わります。人はいつか死にます。すべてのものに終わりがやってきます。この冷徹な事実を忘れることは、人生を浪費で終わらせてしまうことになりかねないのです。

貧富の格差がある世界

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第二に、キリストはあらゆる国の人々に福音を伝えて、弟子とせよと言われたのです。これはキリストの福音には、どんな国の文化圏の人々をも救うことができる。そのような力がある、ということです。
神はすべての人を愛しています。あらゆる国の人々を愛しておられます。なぜなら、すべての人は神の形に似せて造られた、神の最高傑作であるからです。
先日、私はとあるレポートを読んでびっくりしました。今、世界人口は77億人です。そのうち上位0.5パーセントに当たる、3850万人の資産は世界人口の半分に当たる、下位38億5千万人の資産と同じだというのです。おそらく人類歴史上、最も貧富の差が開いている時代だというのです。
持っている者はますます富み栄え、持っていない人々はますます貧しくなり、持っている者は何においても優遇され、持っていない人はますます隅へ追いやられる。持っている者はますます自信を持ち、持たざる者はますますコンプレックスを持つようになるというわけです。それで「勝ち組」と「負け組」というような、いや~なことばが横行するのです。

本当の豊かな人間

しかし聖書によると、豊かな人間とは「自分が価値あるものに造られている、ということを知っている人」のことです。自分が神の形に造られていることを信じている人です。つまり自分が富であるかのような人間のことであって、富を持つ人間のことではありません。神の目には、あらゆる国の人々は価値ある存在なのです。
どれくらい価値があるんでしょう。実にひとり子の神、イエス・キリストを十字架の上で犠牲にするほどまでに、価値あるものと見なしてくださっているのです。あなたのいのちの値札には、イエス・キリストのいのちの値が書き込まれているのです。神の形に似せて造られ、神のいのちに購われる者、これほどにすごい価値あるものはありません。神はそのように私たちをご覧になっておられるのです。

いつも寄り添ってくださる

第三に、キリストは世の終わりまで、いつも共にいてくださる方です。
世界で初めて緩和ケア専門病院であるホスピスを立ち上げた方に、シシリー・ソンダースという方がいます。もともとナースの方です。当時、モルヒネは中毒性があるので、患者がどんなに苦しんでいてもそれを与えることに対して、医学界は否定的でした。その考え方をひっくり返した方です。
彼女が最初に担当した患者は、デビット・タスマーというユダヤ人男性でした。彼はポーランドからイギリスに逃げてきたサバイバーで、イギリスではウエイターとして生活してきたのです。不可知論者で、自分だけが頼りという人生観で生きて来たのですが、いよいよ末期がんになったとき、恐怖で苦しむのです。その彼に対して、シシリー・ソンダースがしたのは、そばにいるということでした。他にできることはなかったのです。しかしそばにいる彼女の存在が、タスマーの心を開き、やがて彼女から聞いたイエス・キリストを救い主として信じ受け入れるのです。彼女のかかわり方を通して、キリストは人とともにおられる神なのだということが、心の深いところに届いたのです。
いかがでしょう、神はあなたとともにおられる方です。あなたが一番苦しいとき、どん底のときに、キリストはあなたのすぐそばに、寄り添って来られた方です。この方があなたに必要なすべてを準備して、あなたが帰って来るのを待っておられます。
どうぞ、このイエス・キリストを信じてください。心からお勧めいたします。


使用CDジャケット
森 祐理:神共にいまして

今日のみことば
ですから、あなたがたは行って、あらゆる国の人々を弟子としなさい。父、子、聖霊の名においてバプテスマを授け、わたしがあなたがたに命じておいたすべてのことを守るように教えなさい。見よ、わたしは世の終わりまで、いつもあなたがたとともにいます。
(マタイ28:19-20)