ごきげんいかがですか。高原剛一郎です。
今から２０年ほど前、『パッション』という映画が世界中で上映されました。キリストが十字架につけられるまでの１２時間を写実的に描いた映画で、アメリカでは観客の一人が心臓麻痺で亡くなるということまで起きたんです。
この『パッション』の続編映画の作成が今始まっているようです。次の作品はキリストが十字架で死なれてから復活するまでの３日間を描いた映画です。なぜ、続編を撮るんでしょう。キリストがしてくださったことは、十字架と復活の両方揃ってはじめて意味を持つからだと、監督のメル・ギブソンは言っています。
ところで、日本で『パッション』が上映された時、評価はそんなに高くなかったんですね。というのは、ただの残酷映画とみる方々が案外多かったからです。確かに十字架刑というのは残酷です。しかし、十字架の意味について知るならば、ただの残酷物語などではなく、私たちの人生に関わってくるメッセージである、と分かるでしょう。そこで今日は、十字架の意味についてご紹介します。
聖書にこうあります。
キリストは自ら十字架の上で、私たちの罪をその身に負われた。それは、私たちが罪を離れ、義のために生きるため。その打ち傷のゆえに、あなたがたは癒やされた。
ここから三つのポイントで、キリストの十字架を説明しましょう。
キリストは罪を背負うために十字架で苦しまれた
第一に、十字架にかかられたキリストがしておられたことは、私たちの罪を背負っておられたのだ、ということです。
先日ネットでなんとも、モヤっとしたものが残る記事を読みました。東京でゴミ収集作業をしていた作業員の方のところに、小学生の男の子がやって来て「迷惑になるからやめてほしい」と言ったというんです。ゴミ収集していると当然ゴミから出る臭いが発散しますよね。臭いにおいを町にまき散らかすような迷惑なことはやめてくれ、というふうに言ったんですね。その時作業員の方は何と言ったんでしょう。「なんで臭いと思う？」あまりにも意表を突いた問いに小学生はびっくりして、そのまま逃げて行ったそうです。
記事には続きがありました。ゴミが臭くなるのはゴミのせいでもない、水のせいだ、というんです。もしゴミを完全に乾燥した状態にすると、臭いは出なくなるそうです。ところが、ゴミといっしょに水があると、それによって臭いにおいが発生するようになるんですね。なので臭いゴミが嫌なら、ゴミを捨てる前によーく水切りをしてほしい、と伝えたかったんだそうです。
ところで、もし町のゴミを収集する人が誰もいなくなったら、町はどうなるでしょう。町全体が、ゴミになります。とてもじゃないですけど、文化的生活はできないでしょう。私たちが快適な生活を営むことができるためにゴミ収集があるんですね。それは私たちにとって良いことをもたらしているのです。ところが表面的にしか見ない小学生の目には、迷惑にしか見えなかったんですね。
キリストの十字架を見て、単なる残酷物語にしか見えないというのは、キリストの十字架の意味を見落としているからだと思います。一体、何のために、誰のために、キリストは十字架で苦しまれたのでしょう。私たちの罪を背負ってさばきを受けるために、苦しんでおられたのです。
キリストは自発的に身代わりになられた
第二に、キリストの十字架は自発的なものでした。
先日、アメリカの裁判記事を見て驚いたんですね。訴えを起こしたのは、リチャード・A・ジョーンズという男性で、彼は今から２０年ほど前、ミズーリ州のカンザスシティというところで、強盗犯人にされてしまうのです。当時彼は２５歳で、二人の娘がいました。彼は強盗犯ではありませんでした。しかし被害者の目撃証言で「この人がやりました。この人に間違いありません」というひと言で、彼は刑務所に入るのです。懲役２０年です。ところが刑務所に入ると、そこで彼は自分と瓜二つの男と出会うのです。髪型も、皮膚の色も、目の色も、口髭の生やし方まで瓜二つです。しかも名前まで一緒だったんですね。リチャード・ジョーンズさんに対して、リチャード・エイモスという人物です。同じ刑務所に入っていた受刑者たちは、しょっちゅうこの二人を見間違ったそうです。
彼は獄中から冤罪事件の被害者支援をする団体に助けを求めました。そしてついに裁判のやり直しの結果、１７年目に出所することができたのです。出所した彼は政府を訴えてます。１２０万ドルの慰謝料請求です。ある意味当然でしょう。そうでなければ彼の怒りが収まりません。身に覚えのないことで１７年間も罪を背負わされてきたんです。
しかし、キリストは全く身に覚えのない、私たちの罪の罰を背負わされたのに、キリストの中には恨みや怒りがまるでなかったのです。いやそれどころか、十字架の上で祈ってくださいました。「父よ、彼らをお赦しください。彼らは、自分が何をしているのかが分かっていないのです。」と。
なぜ、ほんのかけらも被害者意識がなかったんでしょう。自分から私たちの罪を背負ってくださったからです。あなたを愛して、自発的に身代わりになってくださった方、それがイエス・キリストという方なのです。
キリストの打ち傷による癒し
第三に、このキリストの打ち傷が、私たちを癒していくことです。
キリストは十字架にかかる前にも、多くの傷を受けました。鞭による傷、殴られることによる傷、侮辱による傷。しかし、それらの傷やダメージでキリストが泣いた、という記事はゼロなんです。
ところがキリストは福音書の中で、３回泣いたという記事が出てくるんです。そのうちの一つは、死んで４日もたっている人の墓の前に行かれた時の話です。遺族の傍らで、キリストは涙を流されました。キリストはこの人物を生き返えらせるつもりでした。しかしその前に、人間に死をもたらした罪の悲惨さ、そしてこの罪と死に打ちのめされている遺族のうめきに接した時、キリストから湧いてきたのは、底なしのあわれみの心だったのです。
このシーンはドストエフスキーの『罪と罰』という小説のクライマックスで出てきます。この小説の主人公はラスコーリニコフという人物です。彼によると人間は、２種類あって、人を殺して罪に定められる平凡な人間と、ナポレオンのように多くの人の命を奪ったのに英雄と評価されている非凡な人間です。自分はその非凡な人間の方だと自らに言い聞かせ、強欲な金貸しの老婆を殺害し、金品を奪い取る計画を彼は立てるんですね。ところがその犯行の後で、想定外のことが起こってしまうのです。来るはずのない老婆の妹がやって来て、犯行現場を目撃されてしまうのです。彼は口封じのために第二の殺人を犯してしまうのです。
この小説のクライマックスは、家族のために娼婦となってお金を稼いでいるソーニャという女性が、ラスコーリニコフに聖書を朗読するシーンなのです。人を殺してしまった殺人者と、自分の人生を殺してしまった娼婦は、イエス・キリストが涙を流されるシーンを読むんです。そして罪人のためにあわれみでいっぱいになり、傷を負い、血を流し、命まで捨てて、そうしてよみがえってくださったキリストの中に、光を見出し、癒されていくのです。
どうぞあなたも、あなたのために死んでよみがえられたイエス・キリストを救い主として信じてください。心からお勧めします。
(１ペテロ2：24)
