#947 お「バカ」さんとは誰か?

メッセンジャー似顔絵

おはようございます。高原剛一郎です。

さて日本には財務省、外務省、厚生労働省など10以上の官庁がありますが、そういう役所は世界中の国のどこにでもあるものです。
ところが今年イギリスは、世界のどこにもない新しい官庁を作りました。孤独担当省です。
この官庁の大臣は孤独担当大臣なのですね。英語ではミニスター・オブ・ロンリネス(Minister of Loneliness)というんです。
いったい何をする役所なんでしょう。それはイギリス国民の孤独を和らげるための役所なんです。これができたのには理由があります。
実は誰との関係も切れてしまっている孤独の人が増えるということは、国家的な問題であるというんですね。
具体的に言いますと、孤独な人はアルコール依存症、薬物依存症、うつ病などの肉体的、精神的に健康を損なうリスクが非常に高くなり、そのことが国家の医療費や病院のキャパシティを圧迫しているというのです。
ジョー・コックス孤独対策委員会のまとめによると、孤独な人たちは年に320億ポンド、約5兆円の負担をイギリス経済に強いる恐れがあるというのです。
さらにこれはテロ対策でもあるのだそうです。近年イギリスではテロがふえていますが、イギリスで生まれ育った孤独な若者が、ネットで国外の過激派の思想に触れることで、自分の苦しみは社会のせいだと考えホームグロウン型のテロを起こす例があるからです。

チェルノブイリで元気に暮らす人々

今から数年前、ホリー・モリスというジャーナリストがチェルノブイリ村を取材しました。
村に入るとガイガーカウンターが鳴りっぱなしです。というのは約30年前事故を起こした原発をコンクリートの箱で頑丈に囲ってカンズメ状態にしたのですが、大急ぎで作ったために耐久性が不十分で、いたるところに亀裂やさびが走っているのです。
それで放射能がダダもれ状態なのです。何しろチェルノブイリ原発が放出した放射性物質は、広島型原爆の400倍なのです。この石棺のあたりは、立ち入り禁止地区になっています。
ところが、この立ち入り禁止地区にいくつか村があるんです。そこで生活しているのは、一度は強制退去させられた人々で、彼らは都会からUターンして住みなれたところへ戻ってきたのです。
今も生きているのはほとんど女性なのですが、平均年齢が80台後半、彼女たちは非常に元気です。
そこにある水や空気、大地は世界一汚染されているはずなのに、そこに20年以上住む彼女たちは皆元気いっぱいで、そのほかの地区の高層マンションに引っ越して行った住民たちより10年以上長生きしているというのです。
いったい何が彼女たちを強くしているんでしょう。この人たちは孤独ではないのです。皆お互いに共同体の中につながり合っている人たちなのです。もっとも知り合いが多いだけでは孤独は癒されません。かえって人ごみの中で孤独を痛感することもあるからです。

神から離れているから孤独

どんなに近しい人々も、ほんとうの自分の理解者となることはできませんね。人間には皆限界があるのです。
人は皆、一人ひとり感受性が違いますから、同じ事件を見ても、同じ体験をしても、自分と同じように感じれる人はひとりもいません。
ただし例外があるのです。ほかの人がどんなにあなたを誤解しようが、あなたの心を底の底まで理解できる方がおられるのです。
それはあなたをお造りになった創造主なる神様です。
実は人間が本質的に持っている孤独は、人を完全に理解できる神から、離れて生きているところにあるのです。
あるときイエス・キリストは言われました。

「人の子は、失われた人を捜して救うために来たのです。」

と。
ここから3つのポイントでお話しいたしましょう。

今日の3つのポイント

第一に失われた人とはだれのことでしょう。神との関係を失ったままの人のことを指すのです。
もしあなたがそうであるならば、聞いてください。キリストはあなたのためにこそ、人となってこの世に来られた方なのです。
第二に神はキリストを通して私たちを探しておられる方です。そしてあなたはキリストに探されている方なのです。
神様の呼びかけはあるときは聖書を通して、またあるときにはほかの本を通して、あるときにはクリスチャンの友人を通して、またあるときには事件や出会いを通して、またあるときはラジオのメッセージを通して伝えられているのです。
第三にこの方は、私たちを神のもとに連れ戻すためにこの世に来られたのです。救うために来たとはそういう意味です。

フィリピンからやってきたガッソン

遠藤周作さんの初期の作品に『おバカさん』という小説があります。
サラリーマン日垣隆盛のところに一通のエアメールが届くところから話が始まります。それはフランス人のガッソンという人からでした。
以前文通していた人です。彼は大の日本好きで、なんとあのナポレオン皇帝の直系の子孫なのです。
ところが日本にやってくるのには航空機ではなく、フィリッピンから船で来るっていうんですね。
しかも四等で、船底のトイレに近い貨物の間に寝てやってくるのです。
姿を見るとヨレヨレの状態なんです。おまけに顔は馬面で、全く魅力がありません。

カット

遠藤周作『おバカさん』

ガッソンはキリストのひな型

しかしこのガッソンこそは、イエス・キリストのひな型なのです。
キリストは神の御子であり、また人としてはダビデ王の家系から出た方ですが、この世に生まれたときには家畜小屋の飼い葉桶に寝かされていたのです。
さてこのガッソンは、日本に来たものの観光やショッピングには一切興味がないのです。しかし、すべて疲れた人、重荷を負っている人、弱っている人、心がすさんでいる者に引き寄せられていく人なのです。
初日に咳が止まらない老犬を引き取って飼いはじめるんです。
やがて彼は夜の新宿の街に出かけて行くようになります。
そこにはチンピラやくざや、アルコールでダメになった人、身を持ちくずした女性が、吹き溜まりのようにして生きています。その闇の中に分け入っていくガッソンは、散々な目にあうのです。
ところが彼をひどい目に合わせた人々も、彼の持ち前の人懐っこさに、少しずつひかれていくんですね。
ひょんなことからガッソンは、殺し屋のやくざで、結核にかかった男と出会います。彼の名は作者の遠藤なんです。
この男には兄がいました。しかし戦場で上官たちによって、あらゆる戦争犯罪の責任を押し付けられて、処刑されていました。

身代わりになったガッソン

真相を知った遠藤は、兄の上官であった小林という男を見つけ出して復讐し、自分の手でとどめを刺すということだけを目的に生きているのです。
罪にとらわれて行く遠藤に対し、何とか思いとどまらせようとして、ガッソンは彼につきまといます。
しかし、とうとうその日がやってきました。
遠藤と小林はすざまじい死闘を演じます。現場に駆け付けたガッソンは、必死で止めようとします。
しかし傷ついた遠藤の上に、小林がシャベルを振りかざし、思いっきり振り下ろすのです。
その瞬間ガッソンは遠藤と小林の間に、体を滑り込ませ、シャベルはガッソンの体に深く突き刺さるのです。
息を引き取ろうとするガッソンは、「ノン、ノン、私のお願い、私のお願い」と言って、自分の両手を遠藤の上に置いて亡くなるのです。

愛とは損得勘定しないもの

さて遠藤周作はこのガッソンの小説を、「英雄伝」とか「愛の人」とよばず、「おバカさん」と名づけたのです。
何の得にもならないことに命をかけたからです。
しかし、愛というものは、いつでも損得を勘定しないものではありませんか。
キリストはあなたの罪の身代わりとなって、実にバカな死に方に見える十字架にかかってくださいました。
しかしこれは愚かなことではありません。三日目に復活されたからです。
どうぞあなたのために、愚かしく見えるほどに徹底した歩みをなさった、救い主イエス・キリストを信じ心に受け入れて下さい。心からおすすめします。


使用CDジャケット
向日かおり:十字架の上

今日のみことば
「人の子は、失われた人を捜して救うために来たのです。」
(ルカ19:10)